この記事でわかること

  • BPSDの種類別(興奮・徘徊・妄想)に、現場で即実践できる対応手順
  • BPSD出現時のアセスメントの進め方とチェックポイント
  • 非薬物的アプローチで改善しない場合の精神科医への相談タイミング
  • 記録の取り方とチーム内での情報共有の方法

BPSDとは何か|まず正しく理解する

BPSDは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略で、認知症に伴う行動・心理症状を指す。中核症状(記憶障害、見当識障害など)とは異なり、環境要因や身体的要因、心理的要因が複合的に絡んで出現する。

認知症グループホームでは、利用者の約7割が何らかのBPSDを呈するとされている。代表的な症状として、興奮(攻撃的言動を含む)、徘徊(外出傾向)、妄想(物盗られ妄想など)が挙げられる。

重要なのは、BPSDは「問題行動」ではなく、本人が何らかの不快や不安を感じているサインだという視点である。この視点を持てるかどうかで、ケアの質は大きく変わる。

興奮・攻撃的言動への対応手順

フェーズ1:安全の確保

興奮状態にある利用者に対して、最初にすべきことは安全確保である。他の利用者を静かに別の場所へ移動させ、危険物(食器、杖など)を利用者の手が届かない位置に移す。

この段階で絶対にやってはいけないのは、複数人で囲む、大きな声で制止する、身体を押さえつけることである。これらはいずれも興奮を悪化させる。

フェーズ2:距離と態度の調整

利用者との距離は腕を伸ばした程度(約1メートル)を保つ。正面からではなく斜め横から近づき、目線を同じ高さに合わせる。

声のトーンは低めにゆっくりと。「〇〇さん、大丈夫ですよ」「何か嫌なことがありましたか」など、短い言葉で穏やかに語りかける。

フェーズ3:原因のアセスメント

興奮が落ち着いてきたら、出現前の状況を振り返る。以下のチェックポイントを確認する。

  • 身体的苦痛の有無(痛み、便秘、尿閉、発熱など)
  • 環境要因(騒がしさ、照明、室温、他利用者との関係)
  • 時間帯のパターン(夕方に多い場合は夕暮れ症候群の可能性)
  • 直前のイベント(入浴、食事、面会など)
  • 服薬状況の変化

身体的苦痛が原因の場合は、BPSDへの対応ではなく、その苦痛の解消が最優先となる。

徘徊への対応手順

徘徊の背景を読み解く

徘徊と一口に言っても、その背景はさまざまである。

「家に帰りたい」という帰宅願望からの外出行動、落ち着かない不安感からの歩き回り、探し物をしているつもりの行動、身体的不快(便意、尿意)を解消しようとする行動など、それぞれ対応が異なる。

施設内の徘徊への対応

施設内での徘徊については、無理に制止するのではなく、安全な環境の中で歩行を見守ることが基本となる。廊下やフロアの安全確認(段差、滑りやすい場所の解消)を日常的に行い、徘徊しても安全な動線を確保しておく。

一定時間歩いた後に「お茶を一緒にいかがですか」と別の活動に誘導する方法が有効なケースも多い。

外出傾向への対応

外出傾向がある利用者については、施設の出入口にセンサーを設置し、早期に察知できる体制を整える。ただし、物理的な施錠のみに頼る対応は利用者の尊厳を損ない、かえって不穏を増大させることがある。

帰宅願望が強い利用者には、「今日は遅いので明日にしましょう」ではなく、「〇〇さんの部屋にきれいなお花がありましたよ、見に行きませんか」など、関心をそらす声かけが効果的である。

妄想への対応手順

物盗られ妄想の基本対応

認知症グループホームで最も多い妄想は物盗られ妄想である。「財布を盗まれた」「通帳がない」といった訴えに対して、「盗んでいません」と否定するのは逆効果となる。

基本的な対応手順は以下の通りである。

  1. まず訴えを傾聴する。「それは困りましたね」と気持ちに寄り添う
  2. 一緒に探す行動を取る。「一緒に探しましょう」と伝え、実際に探す
  3. 探す過程で本人が見つけられるよう、さりげなく誘導する
  4. 見つかったら「ありましたね、よかったです」と一緒に安堵する

あらかじめ、よく「なくなる」と訴えるものの予備を用意しておく、定位置を決めて本人と一緒に確認する習慣をつくる、といった予防的な取り組みも有効である。

嫉妬妄想・被害妄想への対応

嫉妬妄想や被害妄想は、物盗られ妄想よりも対応が難しい場合がある。「職員が自分を殺そうとしている」「食事に毒が入っている」といった訴えがある場合、本人は本気でそう感じている。

否定も肯定もせず、「怖い思いをされているのですね」と感情に焦点を当てた対応を行う。そして、この種の妄想が持続する場合は、精神科医への相談を検討する段階である。

記録と情報共有の方法

BPSDへの対応は、個々のスタッフの経験則だけに頼っていては限界がある。チーム全体で情報を共有し、対応を統一するために、記録の仕組みが重要となる。

記録に含めるべき要素は、発生日時、場所、直前の状況、症状の内容、対応の内容、対応後の経過の6項目である。

これらを蓄積していくと、特定の時間帯やきっかけにパターンが見えてくることが多い。パターンが把握できれば、予防的な対応が可能になる。

精神科医への相談タイミング

非薬物的アプローチを十分に試みた上で改善が見られない場合、精神科医への相談が必要となる。具体的な目安は以下の通りである。

  • 非薬物的アプローチを3日以上継続しても改善しない
  • 自傷行為や他利用者への他害リスクがある
  • 睡眠障害が顕著で、夜間の安全確保が困難
  • 食事拒否が続き、身体面への影響が懸念される
  • 妄想や幻覚が持続し、本人の苦痛が大きい

2024年の報酬改定以降、認知症グループホームにおける精神科オンライン診療(D to P with N)の活用が広がっている。看護職員の同席のもと、施設にいながら精神科専門医の診察を受けられるため、通院の負担なく迅速な対応が可能である。

Anchorでは、認知症グループホーム向けに精神科オンライン診療サービスを提供している。BPSDの対応に困った際、当日中に精神科医へ相談できる体制は、利用者の症状改善だけでなく、スタッフの精神的負担軽減にも直結する。

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