TL;DR
- D to P with Nは医師(Doctor)と患者(Patient)の間に看護師等(Nurse)が同席するオンライン診療形態で、認知症のある入居者の受診負担を軽減できます。
- 導入には通信環境、同席者の配置、家族・本人への説明と同意、記録管理体制の4つの柱を整える必要があります。
- 診療報酬は複数の管理料・加算が絡むため、連携先の精神科医療機関と事前に算定パターンを確認しておくことが重要です。
D to P with Nとは何か?
D to P with Nは、Doctor to Patient with Nurseの頭文字を取った呼び方で、医師が情報通信機器を用いて患者を診察する際に、患者の近くに看護師等が同席する診療形態を指します。通常のオンライン診療(D to P)と異なる点は、看護師等が身体所見の補助、バイタルサインの測定、患者の状態説明などを担い、医師の診察を医療的にサポートする点です。
認知症のある方は、初対面の医師とのオンライン画面越しのやり取りだけでは意思疎通が難しい場合があります。ここに顔なじみの看護師や介護職員が同席することで、患者の不安を軽減しつつ、医師に正確な情報を伝えることができます。
D to Pとの違いを整理する
| 項目 | D to P | D to P with N |
|---|---|---|
| 同席者 | 基本的になし | 看護師等が同席 |
| 対象 | 意思疎通が可能な患者中心 | 認知症・重度身体疾患など介助が必要な患者 |
| 医療機器操作 | 患者本人または家族 | 看護師等が実施 |
| 適用場面の例 | 慢性疾患の定期受診など | へき地・施設・在宅など医療資源が限られる場面 |
なぜ認知症グループホームで注目されているのか?
背景には次のような実務課題があります。
- 精神科への通院に付き添う職員の人手が確保しにくい
- 通院に伴う入居者の身体的・心理的負担が大きい
- 近隣に往診対応の精神科医療機関が少ない地域がある
- BPSDの悪化時に迅速な医師判断を得たい場面がある
こうした課題に対し、D to P with Nは施設内で看護師等が同席したまま医師の診察を受けられるため、通院に伴う移動リスクや職員の負担を抑えながら、医療の質を維持できる手段として位置づけられています。
導入前に確認すべき7つのチェックポイント
実際に導入を検討する際は、以下の7項目を順に確認していくと整理しやすくなります。
| No | 確認項目 | 具体的な確認内容 |
|---|---|---|
| 1 | 対象患者の選定 | 認知症の重症度、身体合併症の有無、対面診療が必要な状態かどうか |
| 2 | 連携医療機関の対応可否 | オンライン診療の実施指針に対応した精神科医療機関かどうか |
| 3 | 同席者の配置 | 看護師または研修を受けた職員が診療時間に確保できるか |
| 4 | 通信環境 | 上下1Mbps以上を目安とした安定回線、タブレットやカメラの整備状況 |
| 5 | 家族・本人への説明 | オンライン診療の内容、対面診療との違いについての同意取得 |
| 6 | 記録管理体制 | 診療録、看護記録、施設側の記録の連携方法 |
| 7 | 緊急時対応 | 通信障害時や急変時に対面診療へ切り替える手順の明文化 |
この7項目は、導入検討の初期段階でチェックリストとして運営会議の議題にすることをおすすめします。
導入までの流れはどうなっているのか?
一般的な導入プロセスは次のようなステップで進みます。
- 対象入居者のリストアップと医師への相談
- 連携先精神科医療機関との実施可否協議
- 通信機器・回線の選定と設置
- 家族への説明会実施と同意書取得
- 看護師・スタッフへの操作研修(目安2時間程度を2回)
- 試行運用(1〜2か月、月1〜2回の頻度で実施)
- 本格運用開始と定期的な振り返り
合意形成から本格運用までは、施設の規模や医療機関との調整状況によって差がありますが、2〜3か月程度を見込んでおくと計画が立てやすくなります。
費用感はどのくらいかかるのか?
初期投資として想定される費用の目安は以下の通りです。
| 項目 | 費用感 |
|---|---|
| タブレット・カメラ等機器 | 1台あたり5万〜15万円 |
| 通信回線整備(モバイルルーター等) | 月額5,000〜10,000円 |
| 職員研修 | 内部研修であれば実質コストは人件費程度 |
| 診療報酬関連の事務調整 | 初期は事務員の稼働時間として数時間〜十数時間 |
施設内に既存のICT環境がある場合は、追加投資を抑えて導入できるケースもあります。既にICT記録システムを導入している施設では、通信環境の共用によりコストを圧縮できる可能性があります。
診療報酬の考え方はどうなっているのか?
D to P with Nに関わる診療報酬は、オンライン診療料に加え、精神科特有の管理料や看護師同席に関する加算が組み合わされる場合があります。算定パターンは医療機関の施設基準や地域の運用によって異なるため、次の点を連携先医療機関と事前にすり合わせておくことが実務上重要です。
- どの管理料・加算が組み合わせ可能か
- 施設側で発生する費用は保険内か自己負担か
- 算定回数の上限や実施頻度の制約
単純に「オンライン診療料だけで完結する」と誤解したまま導入すると、後から想定外の自己負担が発生するケースがあるため、事前確認を徹底することがトラブル防止につながります。
導入後の運用で気をつけることは何か?
運用が始まった後も、次のような点を定期的に見直すことが望ましいです。
- 通信トラブルの発生頻度と対応時間の記録
- 対面診療への切り替えが必要になった件数とその理由
- 家族からの評価・満足度の聞き取り
- 看護師・介護職員の業務負担の変化
特に、通信障害時の対応手順が曖昧なまま運用を続けると、緊急時に医師の判断を得られない事態につながりかねません。運用開始から3か月程度は振り返りの機会を設け、手順を微調整していくことをおすすめします。
失敗しやすいポイントは何か?
導入がうまく進まない施設に共通する傾向として、次のような点が挙げられます。
- 同席する看護師等の勤務シフトと診療時間が合わず、実施が後回しになる
- 家族への説明が不十分で、対面診療との違いへの理解が得られていない
- 通信環境の事前テストを行わず、初回診療でトラブルが発生する
- 記録の分担が不明確で、診療内容が施設側の介護記録に反映されない
これらは事前の7項目チェックリストを丁寧に確認することで、多くが回避可能です。
まとめ
D to P with Nは、認知症のある入居者の通院負担を軽減しながら精神科医療へのアクセスを維持できる有効な手段です。ただし、通信環境や同席者の配置、家族への説明、診療報酬の算定パターンなど、事前に整理すべき項目は多岐にわたります。導入を検討する際は、本記事のチェックリストを運営会議の議題として活用し、連携先の精神科医療機関と具体的な運用ルールを詰めていくことが成功の近道となります。
