この記事でわかること
- ユマニチュードの基本理念と4つの柱の内容
- 日常ケア(入浴・食事・排泄介助)への具体的な取り入れ方
- ケア拒否を軽減するための5つのステップ
- スタッフへの導入研修の進め方
ユマニチュードとは
ユマニチュード(Humanitude)は、フランスの体育学教師であったイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発した認知症ケアの技法である。40年以上の実践を通じて体系化され、現在では世界13カ国以上で導入されている。
日本では2012年頃から本格的に紹介され始め、2026年現在では全国の介護施設や医療機関で広く実践されている。
ユマニチュードの基本理念は「あなたは人間である」というメッセージを、ケアのあらゆる場面で相手に伝え続けることにある。認知症が進行しても、人間としての尊厳は変わらない。この理念を具体的なケア技法として落とし込んだのが、4つの柱である。
第1の柱:見る
なぜ「見る」が重要か
認知症の方は、相手が自分を見ていないと「無視されている」「存在を認められていない」と感じやすい。ケアを行う際に、作業の手元ばかり見ているスタッフは、利用者にとって「自分に関心がない人」と映る。
実践のポイント
正面から、水平な目線で、近い距離で、長い時間見ることが基本である。
正面からのアプローチは「あなたに正直に向き合っています」というメッセージになる。上から見下ろす視線は支配を、横からの視線は無関心を意味してしまう。
水平な目線は対等な関係性を示す。椅子に座っている利用者に対しては、こちらも膝を曲げるか椅子に座って同じ高さに合わせる。
距離は20センチ以内が理想的である。この距離は、親密な関係にある人同士の距離であり、「あなたを大切に思っています」というメッセージとなる。
第2の柱:話す
オートフィードバック
ユマニチュードでは、ケアの最中に自分が行っていることを実況中継のように言葉にする「オートフィードバック」という技法を用いる。
例えば、清拭の際に「今から温かいタオルで腕を拭きますね」「右腕を持ち上げますよ」「気持ちいいですか」と、一つひとつの動作を言葉にして伝える。
認知症が進行した方でも、言葉のトーンや雰囲気は感じ取ることができる。穏やかで肯定的な言葉を繰り返すことで、ケアに対する抵抗感が軽減される。
声のトーンと速度
低めの落ち着いたトーンで、ゆっくりと話す。高い声や早口は、緊張感や急かされている印象を与える。
沈黙の時間を恐れず、利用者が反応するまで待つことも大切である。認知症の方は情報処理に時間がかかるため、話しかけてから反応が返るまでに10秒以上かかることもある。
第3の柱:触れる
触れ方の原則
ユマニチュードでは、触れる際に「つかまない」ことを原則としている。腕をつかんで移動させる、手首を握って体位変換するといった動作は、拘束や制圧の感覚を呼び起こす。
代わりに、手のひら全体で広い面積を使って触れる。背中をさする、肩に手を置く、手を下から支えるなど、包み込むような触れ方が基本となる。
触れる場所の優先順位
最初に触れる場所は、腕(前腕の外側)か肩が推奨される。顔や頭、体幹部分は親密度の高い部位であるため、関係性ができてから触れるようにする。
手を握る際は、上から握り込むのではなく、下から支えるように手を差し出す。利用者が自分から手を乗せてくるのを待つのが理想的である。
第4の柱:立つ
立位の意義
人間が人間であることの身体的な象徴は二足歩行である。立つことは、血圧の安定、筋力の維持、骨密度の保持、消化機能の促進など、身体面で多くの効果がある。
ユマニチュードでは、ケアの中で立位を取る時間を意識的に確保することを推奨している。目安として1日20分以上の立位時間が望ましいとされる。
日常ケアでの取り入れ方
トイレ介助の際に、便座から立ち上がってからすぐに座らせるのではなく、数十秒間立位を保持する。着替えの際にベッドの端に座らせるのではなく、立った状態で行う。清拭の際に立位で背中を拭く。
このように、特別な時間を設けなくても、日常のケアの中で立位の時間を確保することは十分に可能である。
ケアの5つのステップ
ユマニチュードでは、すべてのケアを5つのステップで構成する。
ステップ1:出会いの準備
居室に入る前に、ドアを3回ノックし、3秒待つ。反応がなければもう一度ノックし、3秒待つ。これは「あなたの領域に入ることの許可を求めている」というメッセージである。
ステップ2:ケアの準備
居室に入ったら、まずケアの話をせず、正面から近づいて目を合わせ、名前を呼んで挨拶する。2秒以内に目が合わなければ、視線が合うまで正面に回り込む。
ステップ3:知覚の連結
見る・話す・触れるの3つを同時に行いながらケアを実施する。「見ているけれど話していない」「話しているけれど見ていない」という状態は避ける。
ステップ4:感情の固定
ケアが終わった後、「気持ちよかったですね」「一緒にできてうれしいです」など、ポジティブな感情を言葉にして共有する。認知症の方は出来事の記憶は失われても、感情の記憶は残るためである。
ステップ5:再会の約束
「また明日も来ますね」「また一緒にお話しましょう」と次回の約束をして離れる。この約束は、次回のケアの導入をスムーズにする効果がある。
スタッフへの導入方法
ユマニチュードを施設全体に導入する際は、まず2~3名のスタッフが研修を受け、その後OJTで他のスタッフに伝達していく方法が効果的である。
日本ユマニチュード学会の認定研修は2日間の基礎コースから始められる。施設への出張研修も実施されている。
導入後は、定期的にスタッフ同士でケアの様子を振り返る時間を設ける。ビデオ撮影による振り返りも効果的だが、利用者・家族の同意を得た上で行う必要がある。
ユマニチュードの導入により、ケア拒否の場面が減少し、スタッフの心理的負担が軽減されたという報告は数多い。利用者とスタッフの双方にとって良い循環が生まれることが、この技法の大きな価値である。
精神科医との連携が必要なケースでも、ユマニチュードの視点を持ったスタッフが日常のケアを行っていることで、薬物療法の効果がより引き出されやすくなる。AnchorではBPSD対応における非薬物療法と精神科オンライン診療の組み合わせを推奨しており、ユマニチュードの実践はその土台となるものである。
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