TL;DR
- ICT導入で介護記録作成時間は平均30〜50%削減、申し送り漏れは体感で大幅減少します
- タブレット・音声入力・クラウド共有を組み合わせることで夜勤帯の負担も軽減できます
- 導入は「現状把握→試験導入→本格運用→定着チェック」の4ステップで進めるとつまずきが少なくなります
なぜ今、認知症グループホームでICT化が求められているのか
認知症グループホームは1ユニット9人という小規模な運営形態が多く、限られた人員で記録・申し送り・介護実務をこなす必要があります。厚生労働省の調査によれば、介護職員が記録業務に費やす時間は勤務時間全体の1割から2割程度を占めるとされ、これは夜勤帯の巡視や利用者対応の時間を圧迫する大きな要因になっています。
紙媒体での記録・申し送りには、次のような課題が指摘されてきました。
- 手書きのため読み取りに時間がかかる
- 情報が分散し、必要な履歴を探すのに手間がかかる
- 口頭申し送りが中心になり、伝達漏れが起きやすい
- 記録用紙の保管スペースや紛失リスクがある
こうした課題を解決する手段として、ICT(情報通信技術)を活用した記録システムの導入が全国のグループホームで進んでいます。
ICT導入で介護記録の作成時間はどれだけ削減できるのか
実際にICTシステムを導入したグループホームのヒアリングでは、記録作成にかかる時間が次のように変化した例が報告されています。
| 業務内容 | 導入前(1日あたり) | 導入後(1日あたり) | 削減率 |
|---|---|---|---|
| バイタル記録入力 | 約40分 | 約20分 | 50% |
| 日々の様子記録 | 約60分 | 約35分 | 42% |
| 申し送り作成 | 約30分 | 約15分 | 50% |
| 家族向け報告書作成 | 約45分 | 約25分 | 44% |
数値はあくまで一例ですが、多くの現場で30〜50%の時間削減が確認されています。削減できた時間は、利用者との対話や見守り業務に再配分できるため、ケアの質向上にもつながります。
申し送り業務はICTでどう変わるのか
口頭申し送りに依存していた体制では、伝達内容が担当者の記憶や表現力に左右され、重要な情報が抜け落ちるリスクがありました。ICT化によって申し送りは次のように変化します。
- 記録がリアルタイムでスタッフ間に共有される
- 過去の記録を時系列で簡単に検索できる
- テンプレート化により記載漏れを防止できる
- 出勤前にスマートフォンやタブレットで前日の状況を確認できる
ある9人ユニットのグループホームでは、ICT導入前は申し送りに要する時間が1回あたり平均15分でしたが、導入後は約7分に短縮されました。さらに、月間のヒヤリハット報告のうち「情報共有不足」に起因するものが導入前の月平均4件から導入後は1件程度に減少したという報告もあります。
実際の導入事例から見る効果とポイント
入居定員18名(2ユニット)の認知症グループホームでの導入事例を紹介します。
導入前の課題は次の3点でした。
- 夜勤スタッフが日中の記録を読み返す時間が確保できない
- 家族への状況報告が手書きのため作成に時間がかかる
- 新人スタッフが過去の経過を把握しにくい
導入したのはタブレット端末とクラウド型記録ソフトの組み合わせで、ケア記録、バイタル、食事・排泄記録を一元管理する仕組みです。導入後半年で得られた成果は次の通りです。
| 項目 | 導入前 | 導入後6か月 |
|---|---|---|
| 月間残業時間(職員1人あたり) | 平均8.5時間 | 平均4.2時間 |
| 記録に関する職員満足度アンケート | 好意的回答42% | 好意的回答78% |
| 新人スタッフの独り立ちまでの期間 | 平均3か月 | 平均2か月 |
特に新人教育の面では、過去記録を時系列で確認できることが大きく寄与し、独り立ちまでの期間短縮につながったと報告されています。
導入時にはどのような課題が起きやすいのか
ICT導入は効果が大きい一方、次のような課題も報告されています。
- 高齢のベテラン職員が操作に慣れるまで時間がかかる
- Wi-Fi環境の整備に想定外の費用が発生する
- 入力項目が多すぎて逆に手間が増えるケースがある
- システム障害時の代替手段が用意されていない
これらは事前の準備で多くが回避可能です。特にWi-Fi環境については、居室数に応じたアクセスポイントの増設が必要になる場合があるため、導入前に通信業者による現地調査を受けることをおすすめします。
導入をスムーズに進めるためのステップとチェックリスト
ICT導入は次の4ステップで進めると失敗が少なくなります。
- 現状把握:記録・申し送りにかかっている時間、課題を洗い出す
- 試験導入:1ユニットまたは1週間限定でテスト運用する
- 本格運用:全ユニットに展開し、マニュアルを整備する
- 定着チェック:3か月後、6か月後に効果測定を実施する
導入前に確認しておきたいチェックリストは次の通りです。
- 施設内のWi-Fi通信環境は十分か
- 端末の台数はシフト人数に対して足りているか
- 個人情報保護に関するセキュリティ設定は適切か
- 紙記録との併用期間と移行スケジュールは決まっているか
- 操作研修の時間をシフトに組み込めているか
- 障害発生時の代替記録方法を定めているか
このチェックリストを導入前会議で全項目確認しておくことで、現場の混乱を最小限に抑えられます。
まとめ
ICTを活用した介護記録・申し送りの効率化は、単なる業務時短にとどまらず、情報共有の質を高め、ヒヤリハットの減少や新人教育の効率化にも寄与します。導入時には現状把握から段階的な運用まで丁寧に進めることが成功の鍵となります。まずは自施設の記録業務にかかる時間を可視化するところから始めてみてください。
監修者:中村 康宏(株式会社Anchor 代表取締役 / 医師)
