レビー小体型認知症とはどのような病気か
レビー小体型認知症は、脳にレビー小体という異常なたんぱく質が蓄積することで起こる認知症の一つです。厚生労働省が公表した認知症施策推進大綱では、2025年には認知症の人が約700万人となり、65歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になるという推計が示されています。認知症全体の中でレビー小体型認知症が占める割合について、グループホームの現場で参照できる確定的な統計は多くありませんが、アルツハイマー型に次いで頻度が高いタイプとして知られており、幻視や妄想といった特徴的な症状のためにケアの難易度が高いと感じる現場スタッフも少なくありません。
この記事では、レビー小体型認知症の幻視や妄想に対して、グループホームのスタッフが日々の業務の中でどこを観察し、どのような基準で対応を判断すればよいかを整理します。
幻視や妄想はなぜ起こるのか
レビー小体型認知症で知られている代表的な症状として、次のようなものが挙げられます。
| 症状 | 特徴 |
|---|---|
| 認知機能の変動 | 時間帯や日によって意識のはっきり具合や認知機能が変化する |
| 幻視 | 人や動物など具体的な内容の幻視が繰り返し現れる |
| パーキンソン症状 | 手足のこわばり、動作の緩慢さ、小刻み歩行などが見られる |
| 睡眠時の異常な言動 | レム睡眠行動障害などがあわせて見られることがある |
これらの症状は、脳内の神経伝達物質の働きの乱れが関係していると考えられていますが、本人にとっては幻視で見えているものが実在するものと同じくらいリアルに感じられる点が重要です。そのため、スタッフが見えないものについて本人がはっきりと訴える場合でも、単なる思い違いとして片付けず、本人の体験として受け止める姿勢が求められます。
妄想については、幻視の内容を本人なりに解釈した結果として生じることがあります。例えば見知らぬ人がいると感じたことがきっかけで、物を盗られたと思い込むといった経過をたどることがあります。幻視と妄想を切り離さず、一連の流れとして記録しておくと、後から振り返った際に状況を把握しやすくなります。
GHスタッフが注意して観察すべきポイントとは
幻視や妄想への対応を考えるうえで土台になるのが、日々の観察記録です。レビー小体型認知症は症状の変動が大きいため、良い状態の時だけを見て判断すると、悪化のサインを見逃してしまうことがあります。
観察記録チェックリスト
- 幻視を訴えた時間帯と場所
- 見えたと話す内容(人物、動物、虫など具体的な内容)
- 本人の反応(怖がっている、楽しそうに話している、怒っているなど)
- その日の覚醒レベルや受け答えのはっきり具合
- 歩行状態や手の震え、動作の速さなど身体症状の変化
- 夜間の睡眠中の大きな寝言や体動の有無
- 食事量、水分摂取量の変化
- 転倒やふらつきの有無
- 直前の出来事や環境変化(来客、模様替え、照明の変化など)
これらの項目は、医師や看護師に報告する際の材料にもなります。特に認知機能の変動とパーキンソン症状の変化は、体調悪化や薬剤調整のサインになることがあるため、普段の状態を知っているグループホームのスタッフが最も気づきやすい立場にあります。
幻視や妄想にどう対応すればよいか
否定しない対応の基本
幻視を頭ごなしに否定すると、本人は自分の感覚を信じてもらえないという不安や不信感を強めてしまうことがあります。対応の基本的な考え方として、次のような流れが現場では参考にされています。
- 本人が話す内容をまず最後まで聞く
- 怖がっている様子があれば、安心できる声かけを行う
- その場に危険なものがないか周囲の環境を確認する
- 無理に幻視を打ち消そうとせず、話題を自然に切り替える
- 照明を明るくする、物の配置を見直すなど環境要因を調整する
幻視の内容が本人にとって楽しいものであれば無理に訂正する必要はありませんが、怖がっていたり、暴言や行動の激しさにつながっていたりする場合は、安全確保を優先します。
対応に迷ったときの判断フロー
現場で対応に迷う場面では、次のような順番で確認すると判断しやすくなります。
- 本人や周囲に身体的な危険があるか確認する
- 危険がなければ、まず傾聴し環境を調整する
- 興奮や混乱が強く日常生活に支障が出ている場合は、記録をもとに相談員や管理者に共有する
- 症状が急に強くなった、または身体症状の悪化を伴う場合は医師に連絡する
この判断フローをスタッフ間で共有しておくことで、担当者によって対応がばらつくことを防ぎやすくなります。
向精神薬の使用でなぜ慎重さが必要なのか
レビー小体型認知症の方は、抗精神病薬に対する感受性が高いことが知られています。通常の認知症の方と同じ感覚で抗精神病薬を使用すると、パーキンソン症状が急激に悪化したり、発熱や意識障害、筋肉の強いこわばりなどを伴う重い症状につながるおそれがあると指摘されています。医薬品医療機器総合機構が公開している医療用医薬品の添付文書情報でも、レビー小体型認知症やパーキンソン病の患者に対して慎重投与や禁忌を定めている薬剤が存在します。
グループホームのスタッフが薬剤の処方や変更を決めることはできませんが、次のような変化があった場合は速やかに医師へ報告することが安全確保につながります。
- 薬剤変更後に動作が急に遅くなった、歩行が不安定になった
- 発熱とともに意識状態が悪化した
- 体の筋肉が硬くなり関節が動かしにくくなった
- 食事や水分の摂取が急に困難になった
こうした情報は、先に挙げた観察記録があってこそ医師に正確に伝えることができます。日々のケア記録と医療連携は切り離せない関係にあります。
医療連携が必要なタイミングとは
幻視や妄想そのものがあるからといって、常に医療機関への連絡が必要というわけではありません。一方で、次のような場合は早めに主治医や連携する医療機関に相談することが望ましいとされています。
- 幻視の内容や頻度が急に変化した
- 興奮や暴言、拒薬などの行動が続き生活に支障が出ている
- パーキンソン症状が目立って悪化した
- 転倒を繰り返すようになった
- 薬剤変更後に新しい症状が出た
連絡する際は、いつから、どのような状況で、どの程度の頻度で症状が出ているかを整理して伝えると、医師側も判断しやすくなります。
記録様式はどう作ればよいか
観察記録は特別な様式でなくても構いませんが、最低限次の項目を盛り込んだシートを用意しておくと、スタッフ間の情報共有がしやすくなります。
| 項目 | 記入内容の例 |
|---|---|
| 日付・時間帯 | 何月何日の朝・昼・夜間のいつか |
| 症状の種類 | 幻視・妄想・身体症状など |
| 具体的な内容 | 本人が話した内容をそのまま記載 |
| 本人の反応 | 怖がっている、怒っている、楽しそうなど |
| 対応内容 | 声かけ、環境調整、医師への連絡など |
| その後の変化 | 落ち着いた、継続したなど |
このシートを日々の申し送りやケア会議で共有することで、変動しやすい症状の経過を職員全体で把握しやすくなります。
まとめ
レビー小体型認知症の幻視や妄想は、本人にとってはリアルな体験であり、頭ごなしの否定ではなく傾聴と安全確認を軸にした対応が基本になります。認知機能の変動やパーキンソン症状、睡眠時の異常な言動などの観察ポイントを押さえ、日々の変化を記録しておくことが、医療連携を円滑にする土台になります。特に抗精神病薬の使用については感受性の高さが指摘されているため、普段と違う変化が見られたときは速やかに医師へ報告する体制を整えておくことが重要です。
出典
- 認知症施策推進大綱(令和元年6月18日 認知症施策推進関係閣僚会議決定)厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00002.html
- こころの健康 みんなのメンタルヘルス 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/kokoro/
- 医療用医薬品の添付文書等情報検索 医薬品医療機器総合機構(PMDA) https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/