身体拘束廃止未実施減算とは何か
身体拘束廃止未実施減算は、身体的拘束等の適正化のために求められている運営基準上の措置を実施していない場合に、所定単位数が減算される仕組みです。認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)を含む多くの介護サービスに共通して設けられています。
運営基準では、やむを得ず身体的拘束等を行う場合であっても、その態様や時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録することが義務づけられています。さらに、身体的拘束等を行わないための体制整備として、指針の整備、委員会の定期開催、職員研修の実施が求められています。これらのいずれかが欠けている状態が継続すると、運営指導の際に未実施と判断され、減算の対象になります。
経営者や管理者にとって重要なのは、身体拘束そのものを行っているかどうかだけでなく、体制整備と記録の両方が整っているかどうかが評価の対象になるという点です。
なぜ減算になるのか、押さえるべき3つの要件
身体拘束廃止未実施減算を防ぐために必要な要件は、大きく分けて次の3つです。
指針の整備
身体的拘束等の適正化のための指針を文書として整備し、事業所内で共有しておく必要があります。指針には、身体的拘束等を行う場合の手続き、記録の方法、委員会の運営方法などを盛り込みます。作成しただけで棚に置いたままにせず、定期的に見直す運用が求められます。
委員会の定期開催
身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を、3月に1回以上開催することが運営基準で求められています。委員会には管理者だけでなく、介護職員や看護職員など複数の職種が参加することが望ましいとされています。開催した結果は、議事録として記録し、参加できなかった職員にも周知する必要があります。
職員研修の実施
身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施することが求められています。新規採用時の研修と、年1回以上の定期研修の両方を計画し、実施記録を残しておくことが基本です。
委員会運営の実務ポイント
委員会運営でつまずきやすいのは、開催自体は行っているものの、記録や周知が不十分なケースです。運営指導では、委員会を開催した証拠として議事録の提出を求められることが一般的です。以下の項目を押さえておくと、指摘を受けにくくなります。
- 開催日時、出席者、欠席者を記録しているか
- 議題として身体的拘束等の発生状況や再発防止策を扱っているか
- 決定事項を次回までのアクションとして明記しているか
- 議事録を職員が閲覧できる場所に保管しているか
- 欠席者への周知方法を決めているか(回覧、朝礼での共有など)
委員会は開催すること自体が目的ではなく、現場で発生した身体拘束の事例を振り返り、再発防止につなげる場として運用することが本来の趣旨です。形式的な開催にとどまらないよう、毎回のテーマを具体的に設定しておくと、記録の質も自然と高まります。
記録実務のポイント
記録は身体拘束廃止未実施減算の判断において特に重視される部分です。やむを得ず身体的拘束等を行う場合には、次の3要件を満たしているかを確認し、記録に残す必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 切迫性 | 利用者本人または他の利用者の生命や身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと |
| 非代替性 | 身体的拘束等を行う以外に代替する介護方法がないこと |
| 一時性 | 身体的拘束等は一時的なものであること |
この3要件を満たしていることを確認したうえで、態様、時間、その際の心身の状況、緊急やむを得ない理由を都度記録します。記録が抜けていたり、理由の記載が曖昧であったりすると、運営指導の際に実施状況の確認ができないとして指摘を受けやすくなります。
記録とチェックに使える実務チェックリスト
現場で定期的に確認できるよう、以下のチェックリストを活用してください。
- 身体的拘束等の適正化のための指針を文書化しているか
- 指針は最新の運営状況に合わせて見直されているか
- 委員会は3月に1回以上開催されているか
- 委員会の議事録は保管され、職員に周知されているか
- 委員会には複数職種が参加しているか
- 新規採用時の研修を実施しているか
- 年1回以上の定期研修を実施し、記録が残っているか
- 身体的拘束等を行った場合、切迫性、非代替性、一時性を確認しているか
- 態様、時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録しているか
- 記録は管理者が定期的に確認する仕組みになっているか
- 家族への説明と同意の記録が残っているか
- 拘束解除に向けた見直しの記録があるか
12項目のうち、どれか一つでも継続的に欠けている状態が続くと、運営指導の際に未実施と判断されるリスクが高まります。月次や四半期ごとに管理者がこのリストで自己点検する運用をおすすめします。
運営指導で指摘されやすいポイント
運営指導の現場では、身体的拘束等を全く行っていない事業所であっても、指針の未整備や委員会議事録の不備で指摘を受けるケースがあります。身体拘束を行っていないことと、体制整備ができていることは別の評価軸であるという点を、現場スタッフにも共有しておくことが大切です。
また、記録様式が統一されていないと、確認すべき項目に漏れが生じやすくなります。態様、時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由の4項目を必ず記載する様式をあらかじめ作成し、全職員が同じフォーマットで記録する運用にしておくと、記録の質を一定に保ちやすくなります。
まとめ
身体拘束廃止未実施減算は、身体的拘束等を行っているかどうかだけでなく、指針の整備、委員会の定期開催、職員研修、記録の実施という体制整備全体が評価の対象になります。委員会は3月に1回以上の開催と議事録の保管、記録は切迫性、非代替性、一時性の3要件に沿った記載を基本とし、チェックリストを使った定期的な自己点検を運用に組み込むことで、未実施と判断されるリスクを下げることができます。
出典
- 厚生労働省 介護保険制度について https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html
- e-Gov法令検索 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号) https://elaws.e-gov.go.jp/