看取り期の家族支援はなぜ難しいのか
認知症グループホームで看取りを行う場合、家族との対話は入居時の説明とはまったく質が異なります。本人の意思が確認しにくい認知症の特性から、家族が代わりに判断を求められる場面が多く、そのたびに迷いや自責の念を抱えやすいことが背景にあります。
現場でよくある例として、面会頻度の少ない家族ほど状態変化を急に知らされたと感じやすく、逆に頻繁に面会している家族でも医療的な説明が難しく感じられ、結果として不信感につながるケースが見られます。看取り期の家族支援は、単に情報を伝えることではなく、家族が納得しながら意思決定に関われるよう伴走することが求められます。
厚労省ガイドラインは家族支援に何を求めているか
看取り期の対応を考えるうえで参照すべき一次資料が二つあります。一つは人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインです。ここでは、本人の意思を確認できない場合、家族が本人の意思を推定できるよう支援し、医療・ケアチームが継続的に話し合いを重ねるプロセスの重要性が示されています。
もう一つは認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドラインです。こちらは認知症の特性を踏まえ、次の三つの原則を示しています。
- 本人の意思の尊重を基本とすること
- 本人の意思決定能力への配慮を行うこと
- 意思決定支援は継続的なプロセスであること
この二つのガイドラインに共通するのは、一度の説明で終わらせず、状態の変化に応じて繰り返し対話する姿勢です。看取り期の家族支援も、この考え方をそのまま応用できます。
看取り期はどう時間軸で区切って考えるか
看取り介護加算の算定区分は、看取り期における状態変化の目安としても実務上参考になります。制度上の区分は次の四つです。
| 時期区分 | 想定される状態変化 | 家族への働きかけの目安 |
|---|---|---|
| 死亡日以前31日以上45日以下 | 食事量や活動量の緩やかな低下 | 今後の見通しと意思確認の場を設ける |
| 死亡日以前4日以上30日以下 | 傾眠傾向や摂取量の明確な低下 | 医師・家族・スタッフで方針を共有し面会頻度を相談する |
| 死亡日の前日及び前々日 | 呼吸状態の変化など看取りが近い兆候 | 体制説明と家族の心構えへの配慮を行う |
| 死亡日 | 逝去 | 付き添い支援と逝去後の説明、連絡 |
この区分をそのまま家族への説明資料として使うわけではありませんが、スタッフ間で今どの段階にあるかを共有する目安として活用すると、対応のばらつきを減らせます。
後悔を残さないコミュニケーションはどう実践するか
家族が後悔を抱えやすいのは、次のような場面です。
- 状態の変化を知らされるのが急で、心の準備ができなかった
- 延命や医療処置について十分に話し合えなかった
- 最期に立ち会えなかった、あるいは立ち会えたが何もできなかったと感じる
- 逝去後の説明が事務的で気持ちの整理がつかなかった
これらを踏まえ、場面別に押さえておきたい声かけと対応を整理します。
| 場面 | 避けたい対応 | 望ましい対応 |
|---|---|---|
| 状態変化の初期説明 | 医学用語のみで一方的に伝える | 今後起こりうる変化を段階的に伝え、質問の時間を確保する |
| 方針の話し合い | 施設側の結論を先に示す | 家族の希望を先に聞き、医師の見解と合わせて整理する |
| 面会頻度の相談 | 遠方だからと連絡を控える | 電話や写真での状況共有を提案し来訪の目安を伝える |
| 看取りが近い時期 | 変化のみを淡々と報告する | 付き添いの希望や心配事を確認し体制を説明する |
| 逝去後の連絡 | 事務連絡のみで終える | 労いの言葉を添え、振り返りの機会があることを伝える |
記録と多職種共有で何を残すべきか
看取り期のコミュニケーションは、話した内容そのものよりも、いつ誰にどのように伝え、家族がどう反応したかという経過が後から重要になります。記録に残しておきたい項目は次のとおりです。
- 説明を行った日時と対応者
- 伝えた内容の要旨
- 家族の反応や希望、質問の内容
- 医師の見解と方針の確認結果
- 次回説明の予定
この記録は、家族間で意見が分かれた場合の振り返り資料になるだけでなく、担当者が交代した際の引き継ぎにも役立ちます。人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインでも、話し合いの内容を都度記録し、本人と家族、医療・ケアチームで共有することが求められています。
よくある失敗パターンとその防ぎ方
現場でよく見られる失敗と、その防ぎ方を整理します。
- 説明を一人のスタッフに任せきりにする 複数の職員が同じ内容を共有できるよう、説明前に要点をチームで確認しておきます
- 医療的な説明と生活面の説明が分断される 医師の説明の後に生活面での変化を補足する時間を設け、家族が全体像を理解できるようにします
- 家族の感情面への配慮が後回しになる 状態説明の前後に、家族自身の体調や気持ちを尋ねる一言を加えます
- 逝去後のフォローがないまま終わる 逝去後の連絡時に、後日改めて話を聞く機会があることを伝えておきます
まとめ
看取り期の家族支援は、状態変化の段階に応じて対話の内容を変えながら、繰り返し家族と向き合う姿勢が基本になります。厚労省のガイドラインが示す意思決定支援の考え方を踏まえ、時期区分を目安にしたチーム内共有、場面別の声かけ、丁寧な記録の三点を押さえることで、家族が後悔を抱えにくいコミュニケーションに近づけます。制度の要件を満たすことと、家族の心情に寄り添うことは別々の取り組みではなく、日々の記録と対話の積み重ねの中でつながっていきます。
出典
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197665.html
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212396.html
- 厚生労働省「指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(看取り介護加算に関する区分) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3936&dataType=1&pageNo=1