遠方家族の面会はなぜ課題になるのか
認知症グループホームには、入居者の子や孫が遠方に住んでいて、頻繁に面会に訪れることが難しいケースが少なくありません。交通費や移動時間の負担に加え、仕事や育児との両立が難しく、結果として面会の間隔が数か月単位になってしまう家族もいます。
面会頻度が下がると、家族は入居者の生活状況や体調の変化を把握しづらくなり、施設への信頼感が薄れる要因になります。一方で施設側も、家族からの問い合わせ対応や状況説明に時間を割くことになり、双方にとって負担が増えます。こうした背景から、電話やビデオ通話を使ったオンライン面会を取り入れる施設が増えています。
ただし、オンライン面会は対面に代わる万能な手段ではありません。実施にあたっては、誰にどのくらいの頻度で行うか、同意をどう取るか、記録をどう残すかといった運用ルールを事前に整理しておく必要があります。
オンライン面会に関する制度上の位置づけはどうなっているか
認知症対応型共同生活介護の運営基準では、運営規程に定めるべき事項として、サービスの内容や利用料、入退居に関する事項などが示されており、家族との交流や面会に関する取り決めも運営規程や重要事項説明書の中で整理しておくことが求められます。オンライン面会そのものを義務付けたり、具体的な回数や時間を定めたりする一次資料は公表されていません。したがって、オンライン面会を導入する場合は、既存の面会に関する規定を見直し、オンラインでの実施方法を追記する形で整備するのが現実的です。
また、新型コロナウイルス感染症の流行期には、感染対策の観点から面会制限が各地で行われ、その代替手段としてオンライン面会の活用が広がった経緯があります。感染症対策が落ち着いた現在も、遠方家族との接点を維持する手段として定着しつつありますが、制度上は事業所の裁量に委ねられている取り組みである点を押さえておく必要があります。
オンライン面会導入でどんな効果が期待できるか
具体的な導入効果を示す公的統計は確認できないため、ここでは数字を示さず、よくある例として一般的に挙げられる変化を整理します。
- 面会頻度が上がり、家族が入居者の表情や生活の様子を定期的に確認できるようになる
- 家族からの電話での状況確認の件数が減り、職員の対応時間が整理しやすくなる
- 遠方家族が入居前の見学や契約後の相談にも参加しやすくなる
- 本人が家族の顔を見る機会が増え、安心感につながるケースがある
一方で、画面越しのやり取りに戸惑う方や、かえって会えない寂しさを強く感じてしまう方もいます。導入前に対象者の状態を見極めることが欠かせません。
運用ルールはどう設計すればよいか
オンライン面会を安定的に続けるには、思いつきで始めるのではなく、次の手順でルールを整理しておくことが重要です。
対象者と適否を判断する
すべての入居者に一律で導入するのではなく、次のような観点で個別に適否を検討します。
- 遠方に住む家族がいて対面面会の頻度が低いか
- 画面越しのコミュニケーションに強い不安や混乱を示さないか
- 本人の視力、聴力の状態で画面越しの会話が成立するか
- 家族側に通信環境や機器の準備があるか
実施頻度と時間帯を決める
頻度や時間について国の基準はないため、施設の人員体制に合わせて無理のない範囲で設定します。例えば月に一定回数、夕食前の落ち着いた時間帯に実施するなど、職員の立ち会いが確保できる時間を優先して組むのが現実的です。繁忙な時間帯に組み込むと、立ち会う職員の負担が増え、継続が難しくなります。
本人・家族への説明と同意取得
画面越しとはいえ、入居者の映像や音声、生活の様子を家族側の端末に映すことになるため、個人情報保護の観点から本人および家族への説明と同意が必要です。同意書には、実施目的、使用するアプリやサービス、録画の有無、情報の保存期間などを明記し、書面またはそれに準じる方法で残します。医療・介護関係事業者における個人情報の取扱いに関するガイダンスを踏まえ、第三者への提供にあたる場面がないかも確認しておきます。
機器・通信環境とサポート体制の整備
施設側はタブレットやカメラ付き端末、安定した通信回線を用意し、家族側にも事前に接続方法を案内します。職員が操作をサポートする体制を決めておかないと、通信トラブルのたびに対応が属人化してしまいます。操作マニュアルを一枚にまとめ、誰が対応しても同じ手順で接続できるようにしておくと安定します。
記録と振り返りの仕組み
実施日時、参加者、使用した通信手段、本人の様子、家族からの要望や気づきを記録に残します。記録は運営指導の際に面会実績の説明を求められた場合にも活用できますし、本人の心理状態の変化を把握する材料にもなります。一定期間ごとに記録を振り返り、頻度や時間帯の見直しを行うことも運用ルールに組み込んでおきます。
運用ルール作成チェックリスト
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者選定 | 認知機能や心理状態を踏まえて個別に適否を判断しているか |
| 頻度・時間 | 職員体制に無理のない頻度と時間帯を設定しているか |
| 同意取得 | 本人と家族双方から書面等で同意を得ているか |
| 情報管理 | 録画の有無や保存期間を明確にし、第三者提供の有無を確認しているか |
| 機器準備 | 端末と通信環境を事前に確認し、トラブル時の代替手段を決めているか |
| 記録整備 | 実施日時、参加者、本人の様子を記録に残しているか |
| 見直し体制 | 一定期間ごとに実施状況を振り返る仕組みがあるか |
| 対面面会との併用 | オンラインのみに偏らず、対面機会の確保も検討しているか |
トラブル対応・リスク管理で気をつけること
オンライン面会では、通信トラブルによって途中で接続が切れてしまうことがあります。その場合の再接続手順や、代替として電話に切り替える基準をあらかじめ決めておくと、当日の対応が混乱しません。
また、画面越しに本人が興奮したり、会えない寂しさから気分が落ち込んだりする場合もあります。立ち会う職員が本人の表情や言動を観察し、必要に応じて面会を短く切り上げる判断ができるようにしておくことも大切です。面会後に本人の様子が不安定になった場合は、記録に残し、次回以降の実施方法を見直す材料にします。
家族側からの要望として、面会時間の延長や頻度の増加を求められることもありますが、職員体制に無理が生じる要望は運営規程の範囲内であることを丁寧に説明し、双方が納得できる落とし所を探ることが継続のポイントになります。
まとめ
オンライン面会は遠方家族との接点を維持する有効な手段ですが、頻度や時間についての国の基準は存在しないため、施設ごとに運営規程を見直し、対象者の選定、同意取得、記録整備までを含めた運用ルールを作る必要があります。対面面会との併用も視野に入れながら、職員の負担が集中しない形で無理なく続けられる体制を整えることが、遠方家族との信頼関係を保つうえで重要です。
出典
- 厚生労働省 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準 https://elaws.e-gov.go.jp/
- 個人情報保護委員会・厚生労働省 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス https://www.ppc.go.jp/
- 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/