この記事でわかること
- 認知症の方が食事を拒否する原因の分類と見極め方
- 食事環境の整備と食事形態の工夫による摂取量改善の方法
- 安全な食事介助の手順と誤嚥予防のポイント
- 嚥下障害が疑われる場合の医療職との連携方法
食事拒否の原因を見極める
認知症の方の食事拒否には複数の原因が考えられる。表面的には「食べたくない」という反応に見えても、その背景にある原因は多岐にわたる。原因を正しく見極めなければ、適切な対応はできない。
認知機能に起因するもの
失認により、目の前の食事を「食べ物」と認識できていない場合がある。特にミキサー食やペースト食は見た目で食べ物と判別しにくい。
失行により、箸やスプーンの使い方がわからなくなっている場合もある。手づかみであれば食べられるケースもある。
注意障害により、食事以外の刺激(テレビの音、他利用者の動きなど)に注意が向き、食事に集中できないことがある。
身体的要因
口腔内のトラブル(義歯の不適合、口内炎、歯周病、虫歯)は見落とされやすい原因である。口腔内が痛い場合、食事そのものを避けるようになる。
便秘による腹部膨満感、薬の副作用(食欲低下、口渇、味覚変化)、感染症の初期症状(全身倦怠感、微熱)なども食事拒否の原因となる。
心理的・環境的要因
食堂の雰囲気がざわついている、座席の位置が落ち着かない、特定の利用者との同席が不快であるなど、食事環境に起因するストレスが食欲を低下させていることがある。
食事環境の整備
食事の摂取量は環境の影響を大きく受ける。以下の点を見直すことで改善が期待できる。
食堂の照明を適切な明るさに設定する。暗すぎると食事が見えにくく、明るすぎると落ち着かない。自然光が入る時間帯に食事を設定するのも一つの方法である。
食器の色を工夫する。白い食器に白い食材(ごはん、豆腐など)を盛ると認識しにくい。食材と対比色の食器を使うことで、食べ物の認識が向上する。赤や青の縁取りのある食器が効果的との研究報告がある。
テレビを消す、BGMを穏やかなものにするなど、聴覚的な刺激を最小限にする。
座席配置を工夫し、気の合う利用者同士が近くに座れるようにする。落ち着いた環境で食事ができるよう、必要に応じて少人数での食事を検討する。
食事形態の工夫
嚥下機能に合わせた食事形態の調整は安全面で不可欠だが、見た目や味にも配慮が必要である。
ミキサー食は均一な見た目になりやすく食欲を損なうため、ムース食やソフト食など、形が残りつつ嚥下しやすい形態を検討する。
一皿に少量ずつ盛り付け、「これは何か」がわかるように食材を分けて配膳する。器を変える、季節の飾りを添えるなど、視覚的な楽しみを残す工夫も大切である。
水分はとろみを適切に調整する。とろみが濃すぎると口の中に残留し、薄すぎると誤嚥リスクが高まる。嚥下機能の評価結果に基づいてとろみの程度を決定する。
安全な食事介助の手順
食事介助を行う際の基本手順は以下の通りである。
食事前に覚醒状態を確認する。傾眠傾向がある場合は、無理に食事を開始せず、覚醒してから行う。
姿勢を整える。座位で体幹が安定していること、やや前傾姿勢(顎が引けた状態)であることを確認する。顎が上がった状態は誤嚥リスクが高い。
一口量はティースプーン1杯程度から始める。スプーンは口の正面から水平に入れ、上唇で食べ物を取り込むのを待つ。
嚥下を確認してから次の一口を提供する。喉頭(のどぼとけ)の挙上を視覚的に確認する方法と、嚥下音を聴覚的に確認する方法がある。
食事中に咳やむせが出た場合は、一旦食事を中断し、咳が治まるのを待つ。頻回にむせが出る場合は、食事形態の見直しが必要である。
誤嚥予防の具体策
誤嚥性肺炎は認知症の方の死因の上位を占める。日常的な予防策として以下が重要である。
口腔ケアを毎食後に実施する。口腔内の細菌数を減らすことで、仮に誤嚥しても肺炎に至るリスクを下げられる。
食後30分は上体を起こした状態を保つ。食後すぐに臥床すると、胃食道逆流による誤嚥のリスクがある。
服薬のタイミングと方法に注意する。錠剤が飲み込みにくい場合は、粉砕や剤形変更について医師・薬剤師に相談する。
医療職との連携
食事摂取量の低下が持続する場合、栄養状態の悪化や脱水のリスクがある。BMIの推移、血液検査データ(アルブミン値など)、体重変化を定期的にモニタリングし、かかりつけ医に報告する。
嚥下障害が疑われる場合は、嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下造影検査(VF)の実施を検討する。
食欲低下が向精神薬の副作用による可能性がある場合は、精神科医への相談が必要である。Anchorの精神科オンライン診療では、BPSDに対する薬物療法の見直しとともに、食欲や嚥下機能への影響を考慮した処方調整を行っている。薬の調整一つで食事摂取量が回復するケースは珍しくない。
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