この記事でわかること
- バリデーション療法の基本理念と14のテクニック
- 認知症の4つの段階に応じた関わり方
- 繰り返し質問や帰宅願望への具体的な対応例
- 日常ケアへの取り入れ方とスタッフ教育のポイント
バリデーション療法とは
バリデーション療法は、ソーシャルワーカーのナオミ・フェイルが1963年から開発を始めた、認知症高齢者とのコミュニケーション技法である。「バリデーション(Validation)」とは「承認する」「価値を認める」という意味を持つ。
この技法の根幹にある考え方は、認知症の方の言動には、たとえそれが現実と異なっていても、その方にとっての意味と理由があるということである。その意味と感情を受け止め、承認することで、本人の不安や苦痛が軽減される。
従来の介護現場では、認知症の方が事実と異なることを言った場合に「正しい現実」を教えようとするリアリティ・オリエンテーションが主流だった。しかし、認知症が中等度以上に進行した方に対しては、現実への修正は混乱と苦痛を強めるだけであり、バリデーションのアプローチがより効果的とされている。
バリデーションの基本原則
バリデーション療法には、実践の土台となる基本原則がある。
認知症の方は独自の理由を持って行動している。傍から見て意味がないように見える行動にも、本人なりの目的や動機がある。
感情は認められると和らぐ。否定されると強まる。「そんなことありませんよ」と否定するほど、本人は自分の訴えを強めようとする。「それは大変でしたね」と感情を受け止めると、訴えは穏やかになっていく。
人生で未解決の課題を解決しようとしている場合がある。繰り返し同じ話をする、特定のテーマに固執するといった行動の背景には、過去の未完了の体験が関わっていることがある。
認知症の4段階とアプローチ
ナオミ・フェイルは認知症の進行を4つの段階に分類し、各段階に応じたアプローチを提唱している。
第1段階:認知の混乱
時間や場所の見当識障害はあるが、会話は成立する段階。この段階では、事実確認の質問(いつ、どこで、何が、誰が)を用いて本人の体験を聞き取り、感情を言語化して返す。
「財布がない」と訴える方に対して、「財布がなくて困っていらっしゃるのですね」と感情を言葉にする。
第2段階:日時・季節の混乱
時間感覚が大きく乱れ、過去と現在が混同する段階。この段階では、本人が生きている「今」の世界に合わせた関わりが重要である。過去の出来事を現在のこととして話す場合、訂正せずに一緒にその世界に入っていく。
第3段階:繰り返し動作
言語でのコミュニケーションが困難になり、繰り返しの動作(手をこする、布をたたむなど)が目立つ段階。この段階では、非言語的なコミュニケーション(タッチ、アイコンタクト、声のトーン)が主な手段となる。
本人の動きに合わせてリズムを共有する「ミラーリング」が有効なテクニックである。
第4段階:植物的状態
外界への反応がほとんど見られない段階。この段階でも、穏やかなタッチや声かけは本人に届いているとバリデーションでは考える。
主要なバリデーションテクニック
リフレージング(言い換え)
本人の言葉をそのまま繰り返す、あるいは少し言い換えて返す。「家に帰りたい」と言われたら「お家に帰りたいのですね」と返す。これにより、本人は「聞いてもらえている」と感じる。
レミニシング(回想の促進)
過去の体験を思い出す手助けをする。「昔はお家でどんなことをされていましたか」「お仕事は何をされていたのですか」など、ポジティブな記憶を引き出す質問をする。
感情に名前をつける
本人の表情や態度から感情を読み取り、言葉にして返す。「不安そうなお顔をされていますね」「何か心配なことがおありですか」。感情が言語化されると、本人は「わかってもらえた」と感じ、気持ちが楽になることが多い。
極端な表現を使う
「一番困っていることは何ですか」「今までで一番嫌だったことは」など、「一番」「最も」といった極端な表現を使って質問すると、感情の表出が促される。
タッチ
穏やかなタッチは、言語以上に安心感を伝えることがある。手を握る、肩に手を置く、頬に触れるなど、相手が受け入れられる範囲で行う。
実践例:繰り返し質問への対応
「今何時?」「ご飯はまだ?」と繰り返し質問する方への対応例。
従来のアプローチでは「さっきも言いましたよ、3時ですよ」と事実を伝えていた。バリデーションでは、質問の背後にある感情に焦点を当てる。
「時間が気になりますか」「何か待っていらっしゃるのですか」と聞く。すると「娘が迎えに来るはずなの」「夕飯の支度をしなきゃ」といった背景が見えてくることがある。その感情を受け止めた上で、「娘さんのこと、大切に思っていらっしゃるのですね」と返す。
スタッフへの導入
バリデーション療法を施設に導入する際は、まず基本原則の理解から始める。公認バリデーション団体による研修を受けることが理想的だが、まずは日常のコミュニケーションの中で「否定しない」「感情を受け止める」という2点を意識することから始められる。
カンファレンスの場で、バリデーションの視点からケース検討を行う習慣を作ることも効果的である。ある利用者の行動の「意味」をチーム全員で考えることで、その方への理解が深まり、ケアの質が向上する。
バリデーションの実践によっても改善が見られない場合は、精神科医の視点が必要なこともある。Anchorの精神科オンライン診療では、日々のケアの状況を踏まえた上で、薬物療法の必要性を判断する。非薬物療法と薬物療法の適切な組み合わせが、利用者のQOL向上には欠かせない。
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