障害者差別解消法の改正で何が変わったのか

障害者差別解消法は、障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止し、社会的障壁を取り除くための合理的配慮を求める法律です。平成28年の施行当初、不当な差別的取扱いの禁止は行政機関等と事業者の双方に法的義務として課されていましたが、合理的配慮の提供は事業者にとって努力義務にとどまっていました。

令和3年の改正によりこの扱いが見直され、事業者による合理的配慮の提供も法的義務に変更されました。この改正法は令和6年4月1日に施行されており、現時点ですでに全ての事業者に適用されています。認知症グループホームを運営する法人も、この事業者に含まれます。

認知症グループホームはなぜ対象になるのか

障害者差別解消法でいう事業者とは、営利・非営利を問わず、商業その他の事業を行う者を広く指します。社会福祉法人、医療法人、営利法人によるグループホーム運営のいずれも対象です。介護保険法に基づくサービスだから対象外、ということにはなりません。

また、法律上の障害者の定義は、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の所持を条件としていません。心身の機能の障害があり、障害および社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受けている状態にある人であれば対象になります。認知症の診断を受けている入居者はもちろん、面会に訪れる障害のある家族や、採用選考を受ける障害のある応募者なども配慮の対象となり得ます。

合理的配慮とはどのような対応を指すのか

合理的配慮とは、障害者から社会的障壁の除去を求める意思の表明があった場合に、その実施に伴う負担が過重でないときに、必要かつ合理的な範囲で対応することをいいます。内閣府の基本方針では、意思の表明について次のような考え方が示されています。

  • 本人からの表明だけでなく、家族や介助者、支援者からの意思表明も含まれる
  • 言語での意思表明が困難な場合、本人の様子等から合理的配慮の必要性を酌み取る努力が求められる
  • 意思表明がない場合でも、支援者を介した建設的対話を自主的に働きかけることが望ましい

この考え方は、言語による意思表明が難しい認知症の入居者を支援する現場にとって特に重要です。本人が明確に要望を言葉にできなくても、表情や行動の変化から配慮が必要な場面を読み取り、家族やケアマネジャーと対話しながら対応を検討する姿勢が求められます。

過重な負担はどう判断するのか

合理的配慮は無制限に求められるものではなく、事業者にとって過重な負担となる場合は提供を断ることが認められています。基本方針では過重負担の判断要素として、次の点が示されています。

判断要素具体的な視点
事務・事業への影響対応によって本来の業務運営に著しい支障が出るか
実現可能性技術的・物理的に実施できる対応か
費用負担の程度事業規模に対して過大な費用が発生しないか
事務・事業規模法人や事業所の規模に見合った対応か
財政状況財務状況から見て実施が困難でないか

過重であると判断した場合も、その理由を説明し、代替案を提示するなど、できる限り障害者の要望に応じようとする姿勢を示すことが基本方針で求められています。断る場合の説明責任も含めて義務の一部と理解しておく必要があります。

認知症グループホームで想定される配慮の場面

実際の現場でよくある配慮の場面を整理すると、次のようなものが挙げられます。

  • 説明や契約書類を分かりやすい言葉や図、ルビ付きの資料で提示する
  • 聴覚に障害のある家族への連絡を電話ではなく書面やメールに切り替える
  • 視覚に障害のある来訪者のために居室や共用スペースの配置を口頭で丁寧に案内する
  • 車椅子を利用する面会者のために、段差への簡易スロープ設置など物理的な対応を検討する
  • 精神障害のある家族やボランティアの来訪時に、落ち着ける個室対応を行う

いずれも特別な設備投資を必ずしも必要とせず、対応の仕方や説明の工夫で実現できるものが多く含まれます。過重負担にあたるかどうかを個別に検討しつつ、できる範囲から着手することが現実的です。

対応指針とはどのようなものか

基本方針を踏まえ、各省庁は所管する分野の事業者向けに、具体的な対応の考え方を示す対応指針を策定しています。厚生労働省は、社会福祉事業者を含む所管分野の事業者向けに対応指針を示しており、合理的配慮の具体例や相談体制の整え方などが記載されています。グループホームの運営法人は、この対応指針を一度確認し、自法人の業務マニュアルや接遇研修の内容と照らし合わせておくことが望まれます。

現場で整えるべき体制チェックリスト

義務化を踏まえ、グループホームが点検しておきたい項目を整理します。

  • 合理的配慮に関する相談窓口を明確にしているか
  • 職員が意思表明の受け止め方を研修で学んでいるか
  • 意思表明があった際の対応フローを文書化しているか
  • 過重負担にあたると判断した場合の説明手順を定めているか
  • 対応内容と結果を記録に残す仕組みがあるか
  • 入居者だけでなく、面会者や求職者への配慮も想定しているか
  • 運営規程や重要事項説明書に相談先を明記しているか
  • 定期的に対応指針や基本方針の改定状況を確認しているか

一つでも未整備の項目があれば、優先順位をつけて整備を進めることをお勧めします。特に相談窓口の明確化と記録の仕組みは、運営指導の場面でも確認されやすい部分です。

職員研修で押さえておきたいポイント

合理的配慮の提供は、管理者だけでなく現場の職員一人ひとりの理解にかかっています。研修では次の点を押さえておくとよいでしょう。

  • 不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供義務は別の規定であること
  • 意思表明は言葉に限らず、行動や様子からも酌み取る努力が必要であること
  • 過重負担であっても代替案の提示や説明が求められること
  • 入居者本人だけでなく、家族、面会者、職員採用の場面でも対象になり得ること

接遇研修や身体拘束廃止研修など既存の研修機会に組み込み、年に一度は内容を見直すことで、形骸化を防ぐことができます。

まとめ

障害者差別解消法の改正により、事業者による合理的配慮の提供は令和6年4月から法的義務となりました。認知症グループホームも事業者として対象に含まれ、入居者本人だけでなく家族や面会者、職員採用の場面まで幅広く配慮が求められます。相談窓口の明確化、意思表明への対応フロー、記録の仕組み、職員研修という四つの柱を中心に、できるところから体制を整えていくことが現実的な対応といえます。

出典