意思決定支援ガイドラインとは何か
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドラインは、厚生労働省が平成30年6月に策定した指針です。認知症があっても本人には意思があり、その意思をできる限り確認し尊重しながら支援することを目的としています。法令のような罰則はありませんが、身体拘束の検討や終末期の方針決定など、本人の権利が大きく左右される場面で参照される基本文書です。
グループホームの現場では、食事や入浴の順番といった日常的な選択から、医療方針や看取りの場所といった重い決定まで、意思決定の支援が日々求められます。ガイドラインはこうした場面で何を優先し、どう進めるかの共通言語を与えてくれます。
ガイドラインが示す基本原則
ガイドラインは意思決定支援にあたっての基本原則をいくつか示しています。現場で特に意識したいのは次の点です。
- 本人の判断能力を一律に否定しない
- 本人の生活史や価値観を踏まえて支援する
- 本人の表明した意思が誤った情報や誤解に基づく場合は、適切な情報提供を行った上で再度確認する
- 家族など関係者の意向は参考情報として扱い、本人の意思に置き換えない
- どうしても本人の意思が確認できない場合は、本人の意思を推定し、それでも困難なときは最善の利益を検討する
この考え方は、介護記録の書き方にも影響します。本人が何を望んだか、それをどう確認したかという経過を残すことが、支援の質を示す証拠になります。
意思決定支援の3つの場面
ガイドラインは意思決定支援を次の3つの場面に分けて整理しています。
意思形成支援
本人が状況や選択肢を理解し、自分なりの考えを持てるよう支援する段階です。認知機能の状態に応じて、説明の速度や言葉の選び方、図や写真を使った視覚的な提示などを工夫します。情報量が多すぎると混乱を招くため、一度に伝える内容を絞ることも大切です。
意思表明支援
本人が形成した考えを表に出せるよう支援する段階です。言葉で表現することが難しい人には、うなずきや表情、行動の変化などから意思を読み取る工夫が必要になります。複数の職員が異なる場面で確認し、表明内容に一貫性があるかを見ることも有効です。
意思実現支援
表明された意思を実際の生活場面に反映する段階です。実現にあたっては、本人の能力を最大限活かしながら、他の利用者の生活や安全とのバランスも検討します。実現が難しい場合は、その理由と代替案を本人に説明することが求められます。
GH現場での活用手順
実際の運用では、ガイドラインの考え方を会議や記録の仕組みに落とし込むことが重要です。よくある例として、次のような流れで運用している現場があります。
- 入居時のアセスメントで本人の生活史や価値観を聞き取る
- ケース会議で意思決定支援が必要な場面を洗い出す
- 意思形成、表明、実現の各段階での対応方法を個別支援計画に記載する
- 身体拘束の検討や医療方針の決定時には、意思決定支援のプロセスを記録に残す
- 定期的に家族や多職種を交えて本人の意思の変化を確認する
記録に残すべき項目のチェックリスト
意思決定支援の経過を記録する際は、次の項目を押さえておくと後から振り返りやすくなります。
- いつ、誰が、どの場面で意思確認を行ったか
- 本人にどのような情報提供や説明を行ったか
- 本人が表明した意思の内容
- 意思が確認できなかった場合、誰がどのように意思を推定したか
- 家族の意向と本人の意思に差がある場合、その経緯
- 実現が難しい場合の理由と代替案の説明内容
身体拘束との関係をどう整理するか
身体拘束の検討は、本人の自由や意思が最も制限される場面の一つです。身体拘束適正化委員会での議論に、意思決定支援ガイドラインの基本原則を組み込むことで、拘束の要否を本人の意思という軸からも検証できます。拘束をせざるを得ないと判断した場合でも、本人への説明や意思確認の経過を記録することが、委員会運営の質を高めることにつながります。
運営指導で問われやすい視点
運営指導では、個別支援計画や介護記録に本人の意思がどう反映されているかが確認されることがあります。家族の意向だけが記載され、本人の意思確認の経過が記録にない場合、支援の根拠が弱いと指摘される可能性があります。日頃から意思確認の記録を残す習慣をつけておくことが、指導対応の負担軽減にもつながります。
まとめ
意思決定支援ガイドラインは、認知症があっても本人には意思があるという前提に立ち、意思形成、意思表明、意思実現という3つの段階で支援を整理する指針です。グループホームの現場では、日々の小さな選択から身体拘束や医療方針といった重い決定まで、このプロセスを意識して記録に残すことが求められます。基本原則とプロセスを職員間で共有し、個別支援計画や会議運営に落とし込むことが、本人中心のケアを実践するための第一歩になります。
出典
- 厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(平成30年6月) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf