「デジタル連携加算」という加算は存在しない

介護報酬の告示を最初から通して探しても、「デジタル連携加算」という名称の加算は見当たらない。認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)の報酬を定めているのは告示第126号で、ここに並んでいる加算の名称に該当するものはない。

新設が検討されているという情報を見かけたら、まず一次資料にあたってほしい。社会保障審議会の資料と告示のどちらにも名称が出てこないものは、制度としてまだ存在していない。名称だけが独り歩きした状態でシステムの契約を先に決めてしまうと、想定した収入が入らないまま費用だけが残る。

令和8年度改定で実際に決まったこと

令和8年度(2026年度)介護報酬改定は実在する。ただし内容は限定的で、令和9年度改定を待たずに行う期中改定という位置づけである。

  • 改定率は+2.03%(処遇改善分+1.95%、基準費用額(食費)の引上げ分+0.09%)
  • 施行は令和8年6月(食費の基準費用額は令和8年8月から)
  • 中身は、介護職員等処遇改善加算の拡充と、基準費用額(食費)を1,445円から1,545円へ引き上げることの2点

処遇改善加算の拡充は、対象を介護職員から介護従事者へ広げ、生産性向上や協働化に取り組む事業者向けに加算Ⅰロ・Ⅱロを設けるものである。認知症GHの加算率は、加算Ⅰイ21.0%、加算Ⅰロ22.8%、加算Ⅱイ20.2%、加算Ⅱロ22.0%、加算Ⅲ17.9%、加算Ⅳ14.9%となっている。

食費の引上げは介護保険施設等の補足給付の仕組みに関するもので、補足給付の対象外である認知症GHの収入に直接は効かない。

つまり、令和8年度改定で認知症GHの加算が新しく設けられたり廃止されたりした事実はない。

認知症GHでICTに関係する実在の加算

ICTや機器の導入と結びつく加算は、すでに制度の中にある。

生産性向上推進体制加算

(Ⅰ)100単位/月、(Ⅱ)10単位/月。介護現場の生産性向上の取組を評価する加算で、認知症GHも対象になっている。令和8年度の処遇改善加算の特例要件でも、施設サービス等についてはこの加算の取得が選択肢に挙げられている。

科学的介護推進体制加算

40単位/月。利用者ごとのADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他の心身の状況等に係る基本的な情報を厚生労働省に提出し、必要に応じて計画を見直すなど、その情報を活用していることが要件である。データを出すこと自体ではなく、出した情報をケアに戻すところまでが求められている。

夜間支援体制加算

(Ⅰ)50単位/日、(Ⅱ)25単位/日。(Ⅰ)の施設基準には、夜勤時間帯を通じて利用者の動向を検知できる見守り機器を、事業所の利用者の数の10分の1以上設置していることが含まれる。機器の導入が要件の一部に組み込まれている点で、ICT投資と報酬が直接つながる数少ない加算である。

その収入でシステム費用は回収できるか

定員18名、1単位10円で計算する(単価は地域区分により異なる)。

  • 生産性向上推進体制加算(Ⅰ) 100単位 × 10円 × 18名 = 18,000円/月
  • 生産性向上推進体制加算(Ⅱ) 10単位 × 10円 × 18名 = 1,800円/月
  • 科学的介護推進体制加算 40単位 × 10円 × 18名 = 7,200円/月

(Ⅰ)と科学的介護推進体制加算を両方算定できた場合でも、18,000円 + 7,200円 = 25,200円/月、年間で302,400円にとどまる。

月額7万円のシステムを入れれば年間84万円である。加算収入だけでは足りない。導入を決めるときは、加算をあてにするのではなく、記録にかかる時間や夜勤者の動きがどう変わるかを導入前に測っておき、そこで判断するのが筋である。

測り方は難しくない。導入前の1か月間、日誌やケア記録の入力に1人あたり何分かかっているかを勤務ごとに記録しておく。導入後に同じ方法で測れば差が出る。この差に時給を掛けたものが、加算とは別に得られる効果である。加算収入と合わせて費用を上回るかどうかで判断すれば、契約したあとに想定と違ったという事態は避けられる。

制度情報を確かめる手順

未確定の加算をめぐる情報に振り回されないために、確認の順番を決めておく。

  1. 加算の名称で告示を検索する。告示に名称がなければ、その加算はまだ存在しない
  2. 単位数は解説記事ではなく告示の条文から取る
  3. 要件は施設基準の告示と解釈通知の両方を見る
  4. 改定の全体像は厚生労働省の改定概要資料で確認する

まとめ

「デジタル連携加算」は介護報酬の告示にない。令和8年度改定で実際に起きたのは処遇改善加算の拡充と食費の基準費用額の引上げだけで、認知症GHの加算は増えても減ってもいない。ICTへの投資を考えるなら、生産性向上推進体制加算、科学的介護推進体制加算、夜間支援体制加算という実在の加算を軸に、加算収入では足りない分を業務の変化でどう埋めるかを計算してから決めること。

出典